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■ 大手拓次の詩コレクション021★泡だつ陰鬱 ■
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女のかひなのやうに泡だつてくる
むさぼり好きの陰鬱よ、
あの黒い いつもよくかしこまつてゐる小魚(こうお)が
空が絹をひいたやうにあまいので、
今日は なだめやうもないほどむづかつてゐる。
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■ 大手拓次の詩コレクション022★あをい馬 ■
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なにかしら とほくにあるもののすがたを
ひるもゆめみながら わたしはのぞんでゐる。
それは
ひとひらの芙蓉の花のやうでもあり、
ながれゆく空の 雲のやうでもあり、
わたしの身を うしろからつきうごかす
よわよわしい しのびがたいちからのやうでもある。
さうして 不安から不安へと、
砂原のなかをたどつてゆく
わたしは いつぴきのあをい馬ではないだらうか。
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■ 大手拓次の詩コレクション023★あをい冠をつけて ■
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こんこんと流れゆく水の行くへの彼方にはみづみづしい漿果(この
み)のたわわにかをる緑の野がある。力なく、たよりなく、かすかに
燃える火の空色を抱きながら、わたしは恍惚とおぼろにさまよひある
くのである。わたしは灰色にけぶる青い冠をつけて、ながいながい裾
をひいて無言をまもつてゐる。
みたまへ、金褐色の大鳥はあやしげな叫びをひびかし、黒い小さな
渡り鳥のむれは幻のやうに集合離散してはてしがない。絹の糸のやう
にいましめの網のすがたがふかい空のなかに媚をしたたらしてゐる。
わたしはすすまう。手をしばられても、足をしばられても、最も背
中もしばられても、わたしの魂を迎へてくれるみどりの野へゆかう。
うちつれてならす幻怪の太鼓のおとよ、いつまでも、わたしのこの清
純な憧憬の社(やしろ)をめぐれ。
悪の花のあまく咲きこぼれ、みだれさわぐ豊麗なからだのうちにわ
たしの芽はたえまもなく生長する。
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■ 大手拓次の詩コレクション024★あをい狐 ■
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さかしい眼をするあをい狐よ、
葦夏(なつあし)のしげるなかに、
おまえへの足をやすめて、
うららかに光明の心(しん)をきる。
草間(くさま)の風を、
その豊麗な背にうけよ 背にうけよ。
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■ 大手拓次の詩コレクション025★あをき影 ■
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あはれ あはれ
眼はとざされて みづにかくれし
なにものも みえわかず
ひとつ ひとつ あをき影あり
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■ 大手拓次の詩コレクション026★あをきまぼろし ■
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かぎりなく ひろごりゆく
あをき手のまぼろし
あをき手のまぼろし
げにもさみしき
あをきまぼろし
うつつなき 花をうがちて
こころむなしく しらべをおとす
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■ 大手拓次の詩コレクション027★あをざめた僧形の薔薇の花 ■
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もえあがるやうにあでやかなほこりをつつみ、
うつうつとしてあゆみ、
うつうつとしてわらつてゐた
僧形(そうぎやう)のばらの花、
女の肌にながれる乳色のかげのやうに
うづくまり たたずみ うろうろとして、
とかげの尾のなるひびきにもにて、
おそろしいなまめきをひらめかしてうかがひよる。
すべてしろいもののなかに
かくれふしてゆく僧形(そうぎやう)のばらの花、
ただれる憂欝、
くされ とけてながれる悩乱の花束、
美貌の情欲、
くろぐろとけむる叡智(えいち)の犬、
わたしの両手はくさりにつながれ、
ほそいうめきをたててゐる。
わたしのまへをとほるのは、
うつくしくあをざめた僧形(そうぎやう)のばらの花、
ひかりもなく つやもなく もくもくとして、
とほりすぎるあをざめたばらの花。
わたしのふたつの手は
くさりとともにさらさらと鳴つてゐる。
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■ 大手拓次の詩コレクション028★雨の柳 ■
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秋雨に 柳はみだるるよ
しだれ しだれて ゆれなびくよ
しどろ しどろに みだれなびくよ
西に 南に
ふりみだす髪の しだれよ
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■ 大手拓次の詩コレクション029★慰安 ■
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悪気のそれとなくうなだれて
慰安の銀緑色の塔のなかへ身をなげかける。
なめらかな天鵞絨色(びろうどいろ)の魚よ、
忍従の木蔭に鳴らす timbale(タンバアル)
秘密はあだめいた濃化粧(こいけしやう)して温順な人生に享楽の罪を贈る。
わたしはただ、空に鳴る鞭のひびきにすぎない。
水色の神と交遊する鞭にすぎない。
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■ 大手拓次の詩コレクション030★威嚇者 ■
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わたしの威嚇者がおどろいてゐる梢の上から見おろして、
いまにもその妙に曲つた固い黒い爪で
冥府から来た響の声援によりながら
必勝を期してわたしの魂へついてゐるだらう。
わたしはもう、それを恐れたり、おびえたりする余裕がない。
わたしは朦朧として無限とつらなつてゐるばかりで、
苦痛も慟哭も、哀れな世の不運も、拠りどころない風の苦痛にすぎなくなつた。
わたしは、もう永遠の存在の端(はし)へむすびつけられたのだ。
わたしの生活の盛りは、空気をこえ、
万象をこえ、水色の奥秘へひびく時である。
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■ ノート ■
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このコーナーは、本文の中にでてくるわからない言葉や、難しい
言葉の意味を解説するコーナーです。
ときには図解もします。そのときはHP上にジャンプすれば図解説
が見られるようにします。
今号はありません。