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━━━━━━━━━━━━(第2号) ━━━━━━━━━━━■□
━● 目次 ●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
§ 小栗虫太郎「人外魔境」(2)
§ ノート
§ 編集後記
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■ 小栗虫太郎「人外魔境」(2) ■
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これが飛行家の観察した悪魔の尿溜だが、つぎに、その奥にある
といわれる巨獣の墓場のことである。おそらく読者諸君も、ゴリラ
や黒猩々《チンパンジー》などの類人猿や、野象にかぎって死体を
みせぬのをご承知であろう。してみると、どこか到底人間には行け
ぬ密林の奥にでも、彼らの死場所がなければならない。悪魔の尿溜
《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]がこの条
件にぴったりと嵌《はま》っているわけだが、これも作者の創作と
思われては困るから、歴然としたパラッフィン・ヤング卿の赤道ア
フリカ紀行、「コンゴからナイル河水源《カブト・ニリ》[#ルビ
は「ナイル河水源」にかかる]へ」のなかの一記事を引用しよう。
晴天だと、ルウエンゾリ山が好箇の目標になるのだが……、降り
だして雨霧《もや》に覆われてからは、ただ足にまかせて密林の
なかを彷徨《さまよ》いはじめた。泥濘《ぬかるみ》は、荊棘
《とげいばら》、蔦葛《つたかずら》とともに、次第に深くなり、
絶えず踊るような足取りで蟻《あり》を避けながら、腰までもも
ぐる野象の足跡に落ちこむ。
すると、前方約百ヤードほどのあたりに、ぴしぴし枝を折りな
がらドス赭《あか》いものが動いてゆく。ゴリラだ! 私はこの
コンゴの奥ふかくにくるまで、ゴリラには一度も逢わなかったのだ。
そこで、ほとんど衝動的に連発銃《ウィンチェスター》をとりあ
げようとした。すると、土人が一人飛びついて銃をおさえ、
「旦那、あのゴリラ《ソコ》[#ルビは「ゴリラ」にかかる]は
恩人でがす。殺すなんて、英人《レコア》の旦那らしくもねえで
がすぞ」
土人は、ゴリラのことを“Soko《ソコ》”という愛称で呼んで
いる。私は声を荒らげるよりも呆気《あっけ》にとられて、
「なぜいかんのだ。ゴリラが獲《と》れるなんて千載に一遇では
ないか」
「それがです。旦那は、野象《ぞう》の穴へ落ちたとき、磁針
《ほうみ》をお壊しなすったので、儂《わし》らは、どっちへどう
出たらこの森を抜けられるか、いま途方に暮れているでがす。
そこへ、あのゴリラ《ソコ》[#ルビは「ゴリラ」にかかる]
が教えてくれたでがすよ。つまり、おらが歩んでゆく先が北に
当るぞちゅうて……」
「そんなことが、お前にどうして分るね?」
「あのゴリラ《ソコ》[#ルビは「ゴリラ」にかかる]は、いま
森の墓場へ死ににゆこうとしているのだ。それが、わしらには
ゆけねえ悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」
にかかる]にあるちゅうだ。ゴリラ《ソコ》[#ルビは「ゴリラ」
にかかる]はな、雨が降るとあんなには歩きましねえ。ぼんやりと、
手を頭にのせてじっと蹲《しゃが》んでおりますだ。わしらは、
幼《ちっ》けなときからゴリラ《ソコ》[#ルビは「ゴリラ」に
かかる]をみてるだが、雨んなかを、死神にひかれて歩かせられて
ゆくような、ゴリラ《ソコ》[#ルビは「ゴリラ」にかかる]に
かぎって北へゆかねえものはねえでがす」
私にはその悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の
尿溜」にかかる]の一言がぴいんと頭へきた。事によったら、
いまいる我々の位置が途方もなく深いのではないか。そういえば、
密林のはずれにあるマヌイエマの部落で、“Kungo《クンゴー》”
といっている蚊蚋《かぶゆ》の大群が、まさに霧《クンゴー》の
ごとく濛々《もうもう》と立ちこめている。私は、そう分ると
ぞっと寒気だち、あのゴリラがいなければ死んだかもしれぬと
思うと、いま頭に手を置いてのそりのそりと歩いてゆく、墓場への
旅人に冥福《めいふく》の十字をきったのである。
ヤング卿はこうして倉皇《そうこう》と逃げかえって、危く
一命を完了した。なまじ進めば、北は瞬時に人を呑《の》む
危険な流沙地域。他の三方は、王蛇《ボア》でさえくぐれぬ
ような気根寄生木《きこんやどりぎ》の密生、いわゆる
「類人猿棲息地帯《ゴリラスツォーネ》」の大密林。だが、
読者諸君、そこへ踏みいって無残にも死に、奇蹟的《きせきてき》
にも大記録を残すことのできたわが日本人の医師がいるのだ。
その踏破録を、シトロエン文化部の発表に先だって、これから
物語風に書き綴《つづ》ろうとするのである。
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■ ノート ■
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このコーナーは、本文の中にでてくるわからない言葉や、難しい
言葉の意味を解説するコーナーです。
ときには図解もします。そのときはHP上にジャンプすれば図解説
が見られるようにします。
●倉皇《そうこう》
倉皇/▼蒼▼惶】
(ト/タル)[文]形動タリ
落ち着かないさま。あわてるさま。
「試験の四日ぐらゐ前から―として準備に着手し/羹(潤一郎)」
●気根寄生木《きこんやどりぎ》
これはしらべましたが、いまのところわかりません。
─【編集後記】───────────────────────
では次回をおたのしみに。
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