カテゴリ:[国枝史郎コレクション]国枝史郎「戯作者」のエントリー一覧
-
スポンサーサイト
スポンサー広告 - --/--/-- -
国枝史郎「戯作者」(01)
[国枝史郎コレクション]国枝史郎「戯作者」 - 2006/05/05国枝史郎「戯作者」(01)初対面「あの、お客様でございますよ」 女房のお菊《きく》が知らせて来た。「へえ、何人《だれ》だね? 蔦屋《つたや》さんかえ?」 京伝《きょうでん》はひょいと眼を上げた。陽あたりのいい二階の書斎で、冬のことで炬燵《こたつ》がかけてある。「見たこともないお侍様で、滝沢《たきざわ》様とか仰有《おっしゃ》いましたよ。是非ともお眼にかかりたいんですって?」「敵討ちじゃあるまいな。俺は殺...
-
国枝史郎「戯作者」(02)
[国枝史郎コレクション]国枝史郎「戯作者」 - 2006/05/05国枝史郎「戯作者」(02)手錠五十日 明日《あす》とも云わず其日《そのひ》即刻《そっこく》、京伝は使いを走らせて馬琴を家へ呼んで来た。「滝沢さん、素敵でげすなア」 のっけ[#「のっけ」に傍点]から感嘆詞を浴びせかけたが、「立派なものです。驚きやした。悠に一家を為して居りやす。京伝黙って頭を下げやす。門下などとは飛んでもない話。組合になりやしょう友達になりやしょう。いやいや私《わっち》こそ教えを受けやし...
-
国枝史郎「戯作者」(03)
[国枝史郎コレクション]国枝史郎「戯作者」 - 2006/05/05国枝史郎「戯作者」(03)戯作道精進「さあ忙しいぞ忙しいぞ」 蔦屋重三郎の帰った後、京伝は大袈裟にこう云いながら性急に机へ向かったが、性来の遅筆はどうにもならず、ただ筆を噛むばかりであった。 そこへのっそり[#「のっそり」に傍点]と入って来たのは居候の馬琴である。「あ、そうだ、こいつア宜《い》い」 何と思ったか京伝はポンと筆で机を打ったが、「滝沢さん、頼みますぜ」 藪から棒に云ったものである。「何でご...
-
国枝史郎「戯作者」(04)
[国枝史郎コレクション]国枝史郎「戯作者」 - 2006/05/05国枝史郎「戯作者」(04)物を云う据風呂桶 それはある年の大晦日、しかも夕暮のことであったが、新しい草双紙の腹案をあれかこれかと考えながら、雑踏の深川の大通りを一人馬琴は歩いていた。 と、ボンと衝突《つきあた》った。「ああ痛!」と思わず叫び俯向いていた顔をひょいと上げると、据風呂桶がニョッキリと眼の前に立っているではないか。「えい箆棒《べらぼう》、気を付けろい!」 桶の中から人の声がする。「桶を冠って...
-
国枝史郎「戯作者」(05)
[国枝史郎コレクション]国枝史郎「戯作者」 - 2006/05/05国枝史郎「戯作者」(05)東海道中膝栗毛「左様でござるかな、仰せに従い、では一風呂いただきましょうかな」 馬琴は喜んで立ち上り、一九の案内で風呂場へ行ったが、やがて手早く式服を脱ぐと、まず手拭で肌を湿し、それから風呂へ身を沈めた。些か湯加減は温いようである。「これは早速には出られそうもない。迂濶《うっか》り出ると風邪を引く。ちとこれは迷惑だわえ」 心中少しく閉口しながら馬琴はじっと[#「じっと」に傍点...
-
国枝史郎「戯作者」(06)
[国枝史郎コレクション]国枝史郎「戯作者」 - 2006/05/05国枝史郎「戯作者」(06)剣道極意無想の構え「もう俺も若くはない。畢世の仕事、不朽の仕事に、そろそろ取りかかる必要があろう」 こういう強い決心の下に「八犬伝」に筆を染めたのは、文化十一年の春であった。 この頃の馬琴の人気と来ては洵に眼覚しいものであって、戯作界の第一人者、誰一人歯の立つ者はなく、版元などは毎日のように機嫌伺いに人をよこし、狷介孤嶂《けんかいこしょう》の彼の心を努めて迎えようとした程であ...